2024年5月3日(金)

BBC News

2024年4月19日

ジェレミー・ボウエン BBC国際編集長

イスラエルによるイラン攻撃は、アメリカのジョー・バイデン大統領をはじめとする西側諸国の首脳が恐れた激しいものではなかった。

バイデン大統領たちはイスラエルに、シリア・ダマスカスにあるイランの在外公館を4月1日にイスラエルが攻撃し、複数の軍幹部を殺害したことがきっかけで始まった危険な事態の連鎖に、区切りをつけるよう働きかけていた。

イスラム組織ハマスがイスラエルを奇襲攻撃してから6カ月以上がたち、ガザ地区では戦争が続く。そして、レバノンとイスラエルの国境の両側へ、そして湾岸地域へと拡大した。

中東全域が全面戦争の寸前にあり、その危険は地域だけでなく世界全体へ及ぶと、大勢が懸念している。

他方でイランは、イスファハンで起きたのは大したことではないという印象を与えようとしている。

最初のうちは、攻撃などなかったという情報が続いた。のちに、国営テレビでアナリストが、「侵入者」が発射したドローンを防空システムがすべて撃墜したと述べた。

国営メディアは小型ドローンをネタにした面白おかしい写真を投稿している。

イランは現地時間14日未明、イスラエルに向けてドローンやミサイルを発射した。今回のイスラエルの攻撃は、これに対する反撃だった。

イランとイスラエルは何年も対立し、互いを脅しあってきた。しかし1979年にイラン・イスラム共和国が成立して以来、イランが自国領内からイスラエルを直接攻撃したのは、14日が初めてだった。

14日の攻撃でイランは300発以上のミサイルやドローンを、イスラエルに撃ち込んだ。そのほとんどが、米英とヨルダンの支援をうけたイスラエルの防空システムによって破壊された。

この攻撃にあたってイランは、自国の意図を明示した。イスラエルとその協力国に準備する時間的猶予を与え、ニューヨークの国連代表部を通じて速やかに、これにて自分たちの反撃はおしまいだと宣言した。

バイデン大統領はこの結果を「勝ち」として受け入れるようイスラエルを説得しようとしたが、イスラエル側は必ず反撃すると譲らなかった。

この危機は当初から、イランとイスラエルの相互理解がいかに不足しているかを露呈した。相手をよく理解していない両国は互いに計算を誤り、危機を悪化させた。

イスラエルは、ダマスカスでイラン革命防衛隊の幹部、モハマド・レザ・ザヘディ准将を殺害したことについて、イランは激怒する以上の反応をしないはずだと思っていたかのようだ。

イスラエルの空爆によって、ダマスカスのイラン外交施設にある領事館は全壊した。准将のほかに、さらに1人の将官を含む6人が殺された。

この攻撃をイラン領への攻撃とみなすと、イランは宣言した。対するイスラエルは、イラン革命防衛隊の存在によって領事館は軍事拠点に変化していたため、外交関係に関する条約や慣習の保護対象ではないと反論していた。

イスラエルは建物の属性を一方的に変更しようとしたが、イランだけでなく、イスラエルに協力する西側諸国も、この言い分を受け入れなかった。そしてイラン政府は、自分たちの反撃をもってイスラエルがこの事態には区切りがついたすることを期待していた。

これもまた、重大な誤算だった。

もしもイスラエルによるイスファハン攻撃を受けて、イランが反撃しないならば、目下の緊張関係は緩和する。

イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、バイデン米大統領との関係をこれ以上悪化させずに、反撃する方法を模索した可能性がある。19日未明から早朝にかけてのイランへの攻撃が、その表れだったのかもしれない。

イスラエルがもし今回以上にイランに反撃しないのならば、ネタニヤフ戦時内閣にいる元軍幹部たちがそれで納得するのか、それが疑問となる。イスラエルが抑止力を回復するには、大規模な反撃が必要だ――というのが、元将軍たちの理屈だっただけに。

ネタニヤフ首相を支える連立勢力に参加する過激なナショナリストたちも、イスラエルは激烈に反撃すべきだと力説していた。

イスラエルの極右政党を率いるイタマル・ベン=グヴィル国家安全保障相は、イスラエルは「狂乱」状態になって反撃する必要があるとまで主張していた。そして、イスラファンへの攻撃については、ソーシャルメディアにヘブライ語で「弱腰」とだけ書いた。

西側諸国の政府に言わせると、中東地域にとって最善の選択肢は、イランとイスラエルの双方が今回の事態に区切りをつけることだった。

しかし、仮に今日の攻撃がこの一連の危機の現時点での区切りになるとしても、新しい前例が作られてしまった。

イランはイスラエルを直接攻撃した。そして、イスラエルはそれに自らも直接攻撃で反応したのだ。

イランとイスラエルの対立が長年続くこの地域で、しばしば対立を律する「ゲームのルール」と呼ばれるものが、変わったことを意味する。

両国が隠然と続けてきた長い戦争は、ついに陰の世界から表舞台に出てきた。

そのプロセスを通じてイランもイスラエルも、互いに激しくこだわり続けている割には、どちらも相手の意図を読むのが上手でないと、露呈してしまった。

一触即発の地域でのことだけに、それは安心材料とは程遠い。

(英語記事 Israel's strike on Iran: Crisis shows how badly Iran and Israel understand each other

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c72pk47j882o


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