2024年5月19日(日)

BBC News

2024年5月4日

インドネシアに生息するスマトラオランウータンが、植物をペースト状にし、頬に負った大きな傷を自ら治療していたことが確認されたと、同国の科学者チームが2日に発表した。

野生生物が薬効のある植物を使ってけがを治療する様子が確認されたのは、これが初めて。

インドネシア・スマトラ島にあるグヌンルスル国立公園の研究チームは2022年6月、「ラクース」と呼ばれるスマトラオランウータンの雄が、頬に大きな傷を負っているのを見つけた。

ラクースはこの数日前に「ロングコール」と呼ばれる大きな鳴き声をあげていた。研究者たちはラクースが、対立するほかの雄のオランウータンと争って負傷したと考えている。

研究チームはその後、ラクースがカル・クニンという名の植物の茎や葉を噛んでいるのを確認した。この植物には抗炎症・抗菌作用があり、地元ではマラリアや糖尿病の治療にも使われている。

ラクースは噛んでペースト状になったカル・クニンを繰り返し頬に塗った。そして、傷が完全に隠れるまで噛んだ葉をのせ続けた。ラクースはこの植物を30分以上食べ続けた。

感染症の兆候はなく、傷口は5日以内にふさがったという。1カ月後には完治した。

科学者たちは、オランウータンがこの植物を食べることはめったにないことと、そしてけがの完治にかかった時間から、ラクースは自分が、薬として機能する植物を塗っているのだと、認識していたと結論づけた。

「オランウータンは私たち人間に最も近い親戚だ。この発見は、私たちとオランウータンがどのような類似点を共有しているか、改めて示すものだ」と、独マックス・プランク研究所の生物学者で、報告書筆頭著者のイザベラ・ラウマー博士は述べた。

「ラクースは、ペースト状にしたものを繰り返し塗っていた。後には、より固形に近い植物性のものを重ねていた。作業全体に、実に長い時間をかけていた。だからこそ、彼はこのペーストを意図的に塗っていたのだと、私たちは考えている」

研究者たちはまた、ラクースが普段よりかなり長い時間(1日のうち半分以上)休んでいるのを確認した。

類人猿が薬を使って自らを治療しようとしていることは、科学者の間ですでに知られていた。

1960年代には生物学者のジェーン・グドール氏が、チンパンジーのふんに葉っぱが丸ごと入っているのを確認した。ほかの研究者たちも、類人猿が薬効のある葉を飲み込む様子を記録した。

しかし、野生の動物が傷口に植物を塗る様子が確認されたことは、これまで一度もなかった。

ラクースがこのような治療行為をしたのは今回が初めてだったのかもしれないと、ラウマー博士は指摘する。

「偶然、指が傷口に触れて、あの植物を塗ったのかもしれない。(カル・クニンには)かなり強力な鎮痛物質が含まれているので、痛みがすぐに和らいだことに気づいて何度も何度も塗ったのかもしれない」

あるいは、一緒に集団生活を送るほかのオランウータンを見て、この方法を学んだ可能性もある。

この研究結果は、学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/c3g8wx7pz0xo


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