2024年5月19日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年4月25日

 NATOの「欧州化」、英仏の核を米国の核に代わるものとすることを主張する者もいる。ただ英仏の核ドクトリンは未発達である。欧州の同盟国はトランプへの耐性をつけるようにウクライナ支援の負担を強化する準備をしている。

 これらは信頼できる米国の抑止力の代替物にはなりえない。米国のパワーなしの世界は米国を二つの理由で危険にする。

 ロシアや中国のような敵は大胆になるし、友人は米国への信頼を失うだろう。「米国第一」の孤立主義は、米国が直面する核の危険を増大させるだけだろう。

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踏まえるべき孤立主義の台頭

 このEconomist誌の社説は、トランプが同盟国との関係をないがしろにする発言をしていることに鑑み、米国の核の傘の信頼性に対する不安が欧州その他で起こっていることについて論じたものであり、時宜を得た良い社説である。その論旨には、ほぼ全面的に賛成である。

 トランプ再選があり得る状況の中、米国の核の傘がなくなり、NATOも日米安全保障条約も従前の様に機能しなくなる状況に対して、どう対処するべきか、わが国としても欧州諸国と同様、真剣に考える必要がある。

 米国の偉大さはPax Americanaの中心国として同盟網を築いてきたことにあり、トランプが「米国を再び偉大にする」(MAGA)ために同盟を機能不全にすることを辞さないとしていることは、全くの間違いであろう。しかし、米国の政治の現実の中で、そのような孤立主義が台頭してきていることは確かである。この現実を踏まえて、日本も真剣に新しい状況に対する対応策を考えていく必要がある。

 NATO成立当時、NATO設立の目的は「Keep America In, Keep Russia Out, Keep Germany Down」と言われたが、米国が欧州を去るような状況は全く好ましくない。アジア太平洋においても、米国が引き続き関与することが情勢の安定のために必要不可欠である。したがって、米国の対外関与を支え、それを確保して行く政策の展開が今以上に必要であろう。

 しかし、米国が孤立主義の方向に行く現実的な可能性も踏まえて、核兵器問題など、これまで考えないで済ませてきた問題についても、考えていく必要があると思われる。核については、米国の拡大抑止に依存すると言うのが日本の防衛政策の基本にあるが、それが揺らいで来ている状況がある。

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