2024年5月17日(金)

令和の日本再生へ 今こそ知りたい平成全史

2024年4月19日

 さらに、45年に10代から30代だった、滅私奉公の軍隊的教育を徹底し、実際の兵士としての体験も豊富に有する厚い世代が、奉公先を企業などに替えて、ワーカー・ホリックだと西洋から揶揄されるほどに働いた。戦後社会において日本人の美質と考えられてきたかなりの部分は軍国主義の賜物であったのではないか。

 そうした、戦後昭和に好循環をもたらした特殊な諸設定は、平成という元号の登場と時期を同じくした冷戦構造の崩壊、および日本人の世代の交代によって失われていった。ソ連の崩壊と社会主義イデオロギーの無力化は、日本が社会主義化するかもしれないという米国への脅しを使えなくし、普通の国として大きな軍事負担を課せられる立場に変質することを余儀なくされながら、平成から令和へと至る。安倍晋三政権から岸田文雄政権への様子を見ればよく分かる。改憲こそまだされていないものの、平和憲法は既にかなり機能を喪失してしまった。

 世代論について確認すれば、戦後日本を支えた「兵隊世代」を仮に、45年に18歳から39歳の男子だったとすれば、彼らは平成元年に62歳から83歳であり、平成31年には92歳から113歳である。つまり平成の初めには社会の第一線からほぼいなくなって、平成の間に、平和で豊かな戦後育ちにすっかり置き換わっていったのだ。そこにバブル崩壊による戦後の積み上げた富の蒸散が加わる。

長い夢から醒め、そろそろ維新を

 敗戦国で、平和国家にさせられて、反共の最前線として米国に面倒をとてもよく見てもらえ、組織に献身する人材に特別に恵まれていた戦後昭和という僥倖に遭遇していたからこそできた貯金を蕩尽してしまった。素寒貧だった幕末維新期か戦後初期の頃にまで、実質的には後戻りしてしまった。それが平成であり、その続きの令和なのかもしれない。

 でも決して悲観することはない。冷戦時代に日本の置かれた状況設定があまりに特殊で旨みのあるものだったのである。その僥倖の度合いをよく分からず、日本の永遠のデフォルトだと勘違いしていたから「失われたX年」と言い続けてきたのだろう。冷戦期に見た夢から醒めて、普通の国に戻ってやり直さねばならぬのだと気付かされてゆく、長いリハビリテーションの時代が、平成から令和に続いているのだと思う。でも酷薄な世界はいつまでもリハビリをさせていてはくれない。そろそろ維新が起きなければならない。

   
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Wedge 2024年5月号より
平成全史
平成全史

小誌の創刊は、時代が昭和から平成となった直後の1989年4月20日である。平成時代は、政治の劣化や経済の停滞など、多くの「宿題」を残した。人々の記憶から忘れ去られないようにするには、正確な「記録」が必要だ。2号連続で「平成全史」を特集する。


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